解雇の承認って!?

解雇の承認って!?

解雇とは、雇用主が一方的に、雇用契約を終了させること

解雇された従業員は、解雇された後に解雇を無効だと主張し、解雇された時点からの給料を請求してくるケースがあります。解雇が無効であれば、従業員と雇用主との間の雇用契約が続いている状態ですので、従業員には給料を請求する権利があります。

この状況では、従業員は現実に労働していない状態ですが、労働をしていない原因は解雇をされたことが原因です。つまり、雇用主側に原因あるため、雇用主側がノーワークノーペイを理由にして給料を支払わないということは、基本的にはできません。解雇を行うことは、無効とされた場合のリスクが大きく、また裁判になった場合に無効と判断される可能性があります。そのため、雇用主が従業員を解雇をする場合には、慎重な検討が必要です。

従業員が素直に応じた場合には?

ところで、雇用主が従業員に解雇を通知した際に、その従業員が「分かりました」と素直に応じた場合、その従業員はその解雇を争うことができなくなるのでしょうか? あるいは、解雇された従業員が異議を言うことなく、退職金を受領したような場合、その従業員はその解雇を争うことができなくなるのでしょうか?

大阪地裁平19・4・26/労働判例944号61頁

大阪地裁は、「解雇者された側が解雇に異議を申し立てないという誓約書を提出し、解雇予告手当と一時金を受領していた」ケースで、「解雇された側が解雇した側に異議を申し立てないという誓約書を提出し、解雇予告手当と一時金を受領していた」場合でも、解雇が無効であるとの結論が左右されるわけではないと述べました。また、大阪地裁は「仮にその時にお互いに退職することを確認できたとしても、解雇が無効であると判断した理由(整理解雇の要件としての閉鎖の合理的理由、解雇回避措置、手続きの相当性のいずれをとっても不十分)に照らすと、そのような合意もまた無効というべき」と判断しています。

最高裁

最高裁は、「従業員(労働者)が自己に不利益な意思表示を行う」ケースの場合には、非常に慎重な判断をしています。

  • 最判平2・11・26/最高裁判所民事判例集44巻8号1085頁等
  • 最判平26・10・23/最高裁判所民事判例集68巻8号1270頁等

解雇は慎重に

つまり、雇用主が行った解雇の場合、従業員がこれに不服があって解雇不当を訴える権利を放棄したとみることができるケースは、きわめて例外的であるいえます。また、解雇された従業員がこれを承認するような言動をとった場合でも「雇用契約が雇用主と従業員の間での合意した解約によって終了した」とみることができるのも例外的であるといえます。

そのため、「雇用主が従業員に解雇を通知した際に、その従業員が「分かりました」と素直に応じた場合や、あるいは、解雇された従業員が異議を言うことなく退職金を受領したような場合、その従業員はその解雇を争うことができなくなるのか」という問いに対して、解雇後に解雇不当を争うことは可能と考えられます。

しかし、解雇してから数年過ぎ、解雇不当を主張してくるような場合には、従業員は解雇を承認したものとして、解雇を争うことはできないと考えられます。

書面作成の際の注意点

従業員が誓約書や承諾書に署名をしてくれる場合、注意しておきたい点があります。「解雇に異議を述べない」という内容の誓約書や「解雇を承諾する」といった書面を作成するのではなく、退職後の紛争を回避するために、合意退職書面を作成しておくことが大切です

そのような手続きを経ずに、それでも解雇をしなければいけないケース(従業員側の問題が大きく、他従業員への影響を考慮し解雇をすべき状況など)においては、解雇の必要性・相当性を十分に雇用側で検討し、解雇が後々争われるリスクを十分想定したうえで、解雇を行うか否かを判断するべきです。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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