賃金について(その2)

賃金について(その2)

1 賃金とは

賃金とは、労働の対価です。賃金は労働者にとって生活の糧であり、重要なものであるため、労働基準法は、労働者保護の観点から、賃金の支払方法等につき一定の規制を設けています。

2 労働基準法の規制

 ⑴ 通貨払い、直接払い、全額払い、毎月1回以上一定期日払いの原則(労働基準法24条)

賃金は通貨で支払わなければなりません。

ストック・オプションの取扱いは?

ストック・オプションは、会社が役員、従業員に対し自社の株式を将来においてあらかじめ設定された価格で購入することができる権利を付与し、従業員等が設定価格で株式を購入した後、これを上回る価格で売却することによって利益を得られるようにするものです。

     ストック・オプションは、権利付与を受けた労働者が権利行使を行うか否か、また権利行使するとした場合においてその時期や株式売却時期をいつにするかを労働者が決定するものとしていることから、この制度から得られる利益は、それが発生する時期および額ともに労働者の判断に委ねられるため、労働の対償ではなく、労働基準法11条の「賃金」に当たらないと解されます(平成9年6月1日基発412号)。そのため、ストック・オプションが通貨払いの原則に違反するということはありません。なお、ストック・オプションは労働基準法の「賃金」にはあたりませんが、労働者に対し制度として実施する場合には、就業規則の相対的必要記載事項となります(労働基準法89条10号)。

賃金は直接労働者に支払わなければなりません。

  親権者や後見人が未成年者の賃金を代わって受け取ってはいけません(労働基準法59

条)。   

賃金はその全額を支払わなければなりません。

 合意による相殺は可能か?

  相殺が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するときは、全額払いの原則に違反しないと解されます。

賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。

3 非常時払い(労働基準法25条)

   労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければなりません。 

   非常の場合とは、①労働者の収入によって生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合、②労働者又はその収入によって生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合、③労働者又はその収入によって生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたって帰郷する場合をいいます(労働基準法施行規則9条)。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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