日本版同一労働同一賃金について(その3)

日本版同一労働同一賃金について(その3)

パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金制度の開始)

長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。

中小企業についても令和3年4月1日から適用開始となった、パートタイム・有期雇用労働法について、何回かに分けて、話をしていきたいと思います。今回は、その第3回目です。

第1回は、「気を付けるべきこと」として、

どのような格差が「不合理と認められる相違」なのかは、明確ではなく、最高裁判決の結論部分だけをみて、自社の正社員と非正規社員との待遇差が「不合理な相違」なのか否かを安易に判断するべきではないこと、「不合理と認められる相違」とは何かにつき裁判例の蓄積を待つしかなく、そのような状況下で、自社の正社員と非正規社員との待遇差を急ぎ解消するべきなのか否かについては、慎重に検討するべきであることを述べました。

前回(第2回)は、「待遇の相違に関する説明義務」、「雇入れ時の説明義務について」話をしました。

今回は、「労働者から求めがあった場合の説明義務」について話をします。

労働者から求めがあった場合の説明義務(第14条第2項)

パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項は、

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。

と規定しています。

これは、短時間・有期雇用労働者から求めがあった場合の説明義務を規定したものです。

待遇の相違について、それが不合理か否かを労働者が判断できるよう、事業主に説明をさせる趣旨の規定です。

説明内容は、

①当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由

②第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項

です。

①当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由について

比較対象となる「通常の労働者」とは

職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等が、短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等に最も近いと事業主が判断する通常の労働者であることとされています(短時間・有期雇用労働指針第3の2(1))。

比較対象となる「通常の労働者」の「単位」については、

・一人の通常の労働者

・ 複数人の通常の労働者又は雇用管理区分

・ 過去1年以内に雇用していた一人又は複数人の通常の労働者

・ 通常の労働者の標準的なモデル(新入社員、勤続3年目の一般職

など)

を比較対象として選定することが考えられるとされています(施行通達第3・10・⑹)。

なお、事業主は、待遇の相違の内容及び理由の説明に当たり、比較対象として選定した通常の労働者及びその選定の理由についても、説明を求めた短時間・有期雇用労働者に説明する必要があること、なお、個人情報の保護の観点から、事業主は、説明を受けた短時間・有期雇用労働者において、比較対象となった通常の労働者が特定できることにならないように配慮する必要があること、とされています(施行通達第3・10・⑹)。

待遇の相違の内容

「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の待遇に関する基準の相違の有無を説明するほか、通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者の待遇の個別具体的な内容又は待遇に関する基準を説明すること(短時間・有期雇用労働指針第3の2(2))とされ、「待遇の個別具体的な内容」は、比較の対象となる通常の労働者の選び方に応じ、・ 比較対象として選定した通常の労働者が一人である場合には、例えば、賃金であれば、その金額・ 比較対象として選定した通常の労働者が複数人である場合には、例えば、賃金などの数量的な待遇については平均額又は上限・下限、教育訓練などの数量的でない待遇については標準的な内容又は最も高い水準・最も低い水準の内容を説明すること。「待遇に関する基準」を説明する場合、例えば賃金であれば、賃金規程や等級表等の支給基準の説明をすること。ただし、説明を求めた短時間・有期雇用労働者が、比較の対象となる通常の労働者の待遇の水準を把握できるものである必要があること。すなわち、「賃金は、各人の能力、経験等を考慮して総合的に決定する」等の説明では十分ではないこと。」とされています(施行通達第3・10・⑺)。

待遇の相違の理由

「待遇の相違の理由の説明については通常の労働者及び短時間労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして適切と認められるものに基づき説明する必要があること(短時間・有期雇用労働指針第3の2(3))。

具体的には、

・ 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で待遇に関する基準が同一である場合には、同一の基準のもとで違いが生じている理由(成果、能力、経験の違いなど)

・ 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で待遇に関する基準が異なる場合には、待遇の性質・目的を踏まえ、待遇に関する基準に違いを設けている理由(職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲の違い、労使交渉の経緯など)、及びそれぞれの基準を通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者にどのように適用しているか

を説明すること。

また、待遇の相違の理由として複数の要因がある場合には、それぞれの要因について説明する必要があること。」とされています(施行通達第3・10・⑺)。

②第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について

説明内容について、「法第 14 条第2項の説明内容のうち、通常の労働者との待遇の相違の内容及び理由以外の事項に関しては、法各条の観点から、事業主が実施している各種制度等がなぜそのような制度であるのか、又は事業主が実施している各種制度等について説明を求めた短時間・有期雇用労働者にどのような理由で適用され若しくは適用されていないかを説明すること。法第 10 条については、職務の内容、職務の成果等のうちどの要素を勘案しているか、なぜその要素を勘案しているか、また、当該説明を求めた短時間・有期雇用労働者について当該要素をどのように勘案しているかを説明すること。なお、本項による説明は、同項による説明義務に係る各条項の規定により求められている措置の範囲内で足りるものであるが、法第 11条及び第 12 条に関し、通常の労働者についても実施していない又は利用させていない場合には、講ずべき措置がないためであることを説明する必要があること。」とされています(施行通達第3・10・⑻)。

説明の程度、方法

「法第 14 条第2項に基づく説明は、短時間・有期雇用労働者がその内容を理解することができるよう、資料を活用し、口頭により行うことが基本であること。ただし、説明すべき事項を全て記載した短時間・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる場合には、当該資料を交付する等の方法でも差し支えないこと(短時間・有期雇用労働指針第3の2(4))。資料を活用し、口頭により行う場合において、活用する資料としては、就業規則、賃金規程、通常の労働者の待遇の内容のみを記載した資料が考えられること。なお、説明の際に、活用した資料を併せて交付することは、事業主が講ずる雇用管理の改善等の措置を短時間・有期雇用労働者が的確に理解することができるようにするという観点から、望ましい措置といえること。説明すべき事項を全て記載した短時間・有期雇用労働者が容易に理

解できる内容の資料を用いる場合において、当該資料には、待遇の相違の内容の説明に関しては、就業規則の条項を記載し、その詳細は、別途就業規則を閲覧させるという方法も考えられること。ただし、事業主は、就業規則を閲覧する者からの質問に、誠実に対応する必要があること」とされています(施行通達第3・10・⑼)。

なお、事業主はきちんと説明をすればよいのであり、短時間・有期雇用労働者が納得するかどうかは本条の説明義務の履行とは関係がありません(施行通達第3・10・⑽)。

不利益取扱いの禁止

事業主は、短時間・有期雇用労働者が法第14条第2項の求めをしたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(法第14条第3項)。

なお、「説明を求めた短時間・有期雇用労働者に対して事業主が法第14条第2項により求められる範囲の説明を行ったにもかかわらず、繰り返し説明を求めてくるような場合に、職務に戻るよう命じ、それに従わない場合に当該不就労部分について就業規則に従い賃金カットを行うようなこと等まで、不利益な取扱いとして禁止する趣旨ではないこと(施行通達第3・10・⑾)」は言うまでもありません。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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