日本版同一労働同一賃金について(その4)

日本版同一労働同一賃金について(その4)

パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金制度の開始)

長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。

中小企業についても令和3年4月1日から適用開始となった、パートタイム・有期雇用労働法について、何回かに分けて、話をしていきたいと思います。今回は、その第4回目であり、定年後再雇用の場合の待遇差が「同一労働同一賃金」規制に反しないかを話したいと思います。

なお、第1回から第3回については、下記リンクを確認してください。

定年後再雇用

従業員の定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上とする必要があり、定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施する必要があります。「継続雇用制度」とは、雇用している高年齢者を、本人が希望すれば定年後も引き続いて雇用する、「再雇用制度」などの制度をいいます。この制度の対象者は、以前は労使協定で定めた基準によって限定することが認められていましたが、高年齢者雇用安定法の改正により、平成25年度以降、希望者全員を対象とすることが必要となっています。

なお、継続雇用先は自社のみならずグループ会社とすることも認められています

詳細は厚労省のホームページを確認してください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page09.html

65歳までの雇用確保が義務化されているため、再雇用制度(従業員の希望次第で定年退職後に新たに雇用契約を結ぶ制度)を導入している企業は多いと思います。

業務内容は変わらないが、賃金は大幅に引き下げ

従業員につき、60歳定年を採用している企業が、定年後再雇用し65歳まで雇用を継続するという方策を採る場合、再雇用後の賃金を定年前の賃金と比較し大きく引き下げるケースが多いと思います。他方で、業務の内容については、再雇用後と定年前とで大差がないケースも多いと思います。そうすると、再雇用者と正社員との間に待遇差が生じていることになり、この待遇差が不合理ではないかということで、裁判になった事例もあります。

パートタイム・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇の禁止)は、

「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」

と規定しています。

この規定に違反するかどうかという問題です。

長澤運輸事件最高裁判決(最判平30・6・1/労判1179号34頁)

ただし、長澤運輸事件は、旧労働契約法20条に関し判断された事案です。

 定年後再雇用(有期雇用)された嘱託社員と、正社員を比較して、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲は同一でした。

 最高裁は、基本給(能率給、職務給)、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与の相違については、不合理ではないと判断しました。他方、精勤手当、時間外手当の相違は不合理と判断しました。この判断にあたり、最高裁は、次のとおり述べています。

・被上告人における嘱託乗務員は、被上告人を定年退職した後に、有期労働契約により再雇用された者である。

・定年制は、使用者が、その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としながら、人事の刷新等により組織運営の適正化を図るとともに、賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができるところ、定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は、当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくないと解される。これに対し、使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合、当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また、定年退職後に再雇用される有期契約労働者は、定年退職するまでの間、無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。そして、このような事情は、定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって、その基礎になるものであるということができる。

・そうすると有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である。

長澤運輸最高裁判決は、有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、「その他の事情」として、待遇の相違が不合理であるとの評価を妨げる方向で考慮されることを示しています。

次回、長澤運輸事件最高裁判決の具体的内容について、話をしたいと思います。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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