労働時間とは

労働時間とは

長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。

今回は、「労働時間」について、話をしたいと思います。

賃金を支払う必要のある時間

労働時間が問題になるのは、労働者が会社に対し(未払い)残業代を請求してくるケースです。例えば、労働者側が、「朝のミーティングに出席した時間も『労働時間』にあたる」、「土曜日(休日)に顧客から呼び出され、対応した時間も『労働時間』にあたる」として、その分の賃金を請求してくる場合、朝のミーティングに参加している時間や顧客対応に要した時間が「労働時間」にあたるかが問題になり、そもそも「労働時間」とは具体的にいかなる時間をいうのかが問題になるのです。

なお、賃金債権の時効が3年になったこと、未払い残業代請求を受けることが会社経営に深刻な影響をもたらす可能性があることは、過去のコラムでも述べました。

労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間

最高裁判決(最判平12・3・9/裁判所時報1263号155頁等)は、

「労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かより客観的に定まるにものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」

と述べています。

具体的には?

労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間…と言っても、抽象的です。

前述の最高裁判決は、

「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。」

と述べています。

最判平14・2・28(裁判所時報1310号82頁等)は、

不活動仮眠時間につき、次のように述べています。

「不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。」

最判平19・10・19(裁判所時報1446号353頁等)は、

マンション住み込み管理人が所定労働時間前後や労働契約上の休日に断続的な業務に従事した時間、犬の散歩や通院に要した時間が「労働時間」にあたるかが争われた事案です。

・平日の時間外労働について

 最高裁は、

「本件会社は,被上告人らに対し,所定労働時間外においても,管理員室の照明の点消灯,ごみ置場の扉の開閉,テナント部分の冷暖房装置の運転の開始及び停止等の断続的な業務に従事すべき旨を指示し,被上告人らは,上記指示に従い,各指示業務に従事していたというのである。また,本件会社は,被上告人らに対し,午前7時から午後10時まで管理員室の照明を点灯しておくよう指示していたところ,本件マニュアルには,被上告人らは,所定労働時間外においても,住民や外来者から宅配物の受渡し等の要望が出される都度,これに随時対応すべき旨が記載されていたというのであるから,午前7時から午後10時までの時間は,住民等が管理員による対応を期待し,被上告人らとしても,住民等からの要望に随時対応できるようにするため,事実上待機せざるを得ない状態に置かれていたものというべきである。さらに,本件会社は,被上告人らから管理日報等の提出を受けるなどして定期的に業務の報告を受け,適宜業務についての指示をしていたというのであるから,被上告人らが所定労働時間外においても住民等からの要望に対応していた事実を認識していたものといわざるを得ず,このことをも併せ考慮すると,住民等からの要望への対応について本件会社による黙示の指示があったものというべきである。

 そうすると,平日の午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については,被上告人らは,管理員室の隣の居室における不活動時間も含めて,本件会社の指揮命令下に置かれていたものであり,上記時間は,労基法上の労働時間に当たるというべきである。」

と述べました。

・土曜日の時間外労働について

 最高裁は

「土曜日においても,平日と同様,午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)は,管理員室の隣の居室における不活動時間も含めて,労基法上の労働時間に当たるものというべきである。

 また,前記事実関係等によれば,本件会社は,土曜日は被上告人らのいずれか1人が業務を行い,業務を行った者については,翌週の平日のうち1日を振替休日とすることについて,被上告人らの承認を得ていたというのであるが,他方で,被上告人らは,現実には,翌週の平日に代休を取得することはなかったというのである。そうである以上,土曜日における午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)は,すべて時間外労働時間に当たるというべきである。

 しかしながら,上記のとおり,本件会社は,土曜日は被上告人らのいずれか1人が業務を行い,業務を行った者については,翌週の平日のうち1日を振替休日とすることについて,被上告人らの承認を得ていたというのであり,また,前記事実関係等によれば,本件会社は,被上告人らに対し,土曜日の勤務は1人で行うため,巡回等で管理員室を空ける場合に他方が待機する必要はないことなどを指示していたというのである。さらに,前記事実関係等によれば,そもそも管理員の業務は,実作業に従事しない時間が多く,軽易であるから,基本的には1人で遂行することが可能であったというのである。

 上記のとおり,本件会社は,被上告人らに対し,土曜日は1人体制で執務するよう明確に指示し,被上告人らもこれを承認していたというのであり,土曜日の業務量が1人では処理できないようなものであったともいえないのであるから,土曜日については,上記の指示内容,業務実態,業務量等の事情を勘案して,被上告人らのうち1名のみが業務に従事したものとして労働時間を算定するのが相当である。」

と述べました。

・日曜日及び祝日の休日労働ないし時間外労働について

 最高裁は

「本件会社は,日曜日及び祝日については,本件雇用契約において休日とされていたことから,管理員室の照明の点消灯,ごみ置場の扉の開閉以外には,被上告人らに対して業務を行うべきことを指示していなかったというのであり,また,日曜日及び祝日は,本件管理委託契約においても休日とされていたというのである。

 そうすると,被上告人らは,日曜日及び祝日については,管理員室の照明の点消灯及びごみ置場の扉の開閉以外には労務の提供が義務付けられておらず,労働からの解放が保障されていたということができ,午前7時から午後10時までの時間につき,待機することが命ぜられた状態と同視することもできない。したがって,上記時間のすべてが労基法上の労働時間に当たるということはできず,被上告人らは,日曜日及び祝日については,管理員室の照明の点消灯,ごみ置場の扉の開閉その他本件会社が明示又は黙示に指示したと認められる業務に現実に従事した時間に限り,休日労働又は時間外労働をしたものというべきである。」

と述べました。

・病院への通院,犬の運動に要した時間について

 最高裁は、

「被上告人らが病院に通院したり,犬を運動させたりしたことがあったとすれば,それらの行為は,管理員の業務とは関係のない私的な行為であり,被上告人らの業務形態が住み込みによるものであったことを考慮しても,管理員の業務の遂行に当然に伴う行為であるということはできない。病院への通院や犬の運動に要した時間において,被上告人らが本件会社の指揮命令下にあったということはできない。」

と述べました。

まとめ

「労働時間」とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かより客観的に定まるものですが、

その判断にあたっては、労働者の活動(作業に従事している場合のみならず、作業に従事していない場合も含む)が使用者から義務付けられ、または余儀なくされたかがポイントであると思います。

この観点から、朝のミーティングに出席した時間が「労働時間」にあたるか否かを考えますと、ミーティングへの出席が義務付けられていた場合には、労働時間にあたると考え、他方、義務付けられていなかった場合には、労働時間にあたらないと考えることになります。

ただし、会社が「ミーティングへの出席は自由である」と言っていても、出席率を賞与支給額の決定にあたり考慮していたり、ミーティングが社内の情報共有の場として重要で、出席しなければその労働者の業務に著しい支障が生じるような実態がある場合には、「ミーティングへの出席を余儀なくされていた」ものとしてミーティングへの出席時間は労働時間であると考えることになると思います。

また、土曜日(休日)に顧客から呼び出され、対応した時間が「労働時間」にあたるか否かですが、顧客対応が義務付けられていた場合には、労働時間にあたると考え、他方、義務付けられていなかった場合には、労働時間にあたらないと考えることになります。ただし、土曜日(休日)に顧客対応がなされている実態を会社が把握していながら黙認していたような場合には、「黙示の指示」があり、義務付けられていたとして、顧客対応に要した時間が「労働時間」にあたるとされてしまうと思います。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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