夜行バスの運転手の仮眠時間は「労働時間」にあたるのか?

夜行バスの運転手の仮眠時間は「労働時間」にあたるのか?

長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。

今回は、夜行バスの交替運転手の仮眠時間が「労働時間」にあたるのかついて、考えたいと思います。

夜行バスに2人の運転手を配置し、その一方が運転手として勤務している間、他方は交代運転手としてバスに乗り仮眠等していた場合、その交代運転手の仮眠等の時間が労働時間に当たるか否か、です。

まず、「労働時間」とは何かを明らかにする必要がありますが、この点については、以前のコラム(「労働時間」とは)をご覧ください。

労働時間にあたらないと考えるケースが多い

労働時間にあたるか否かは、ケースバイケースということになりますが、労働時間該当性が否定されるケースが多いと思います。

東京高等判平成30年8月29日(労働判例1213号60頁)

以下のとおり述べて、労働時間該当性を否定しました。

業務のために交替運転手を配置しているわけではないこと

国土交通省自動車局の「貸切バス 交替運転者の配置基準(解説)」(乙17)によれば、「夜間ワンマン運行の運行前の休息時間を11時間以上確保しており、当該運行の実車距離100kmから400kmまでの間に運転者が身体を伸ばして仮眠することのできる施設(車両床下の仮眠施設等を含む。ただし、リクライニングシート等の座席を含む。)において仮眠するための連続1時間以上の休憩を確保している場合には500kmまで夜間ワンマン運行を行うことが可能です。」とされている。

このように、運転者が一人では運行距離等に上限があるため、被控訴人は交代運転手を同乗させているのであって、不活動仮眠時間において業務を行わせるために同乗させているものとは認められない(乙53)。

交替運転手の非運転時間は労働時間でないことが前提

厚生労働省労働基準局の「バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント」(乙16)には、「拘束時間は、…労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間をいいます」「運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合(ただし、車両内に身体を伸ばして休息することができる設備がある場合に限る)においては、1日の最大拘束時間を20時間まで延長でき、また、休息時間を4時間まで短縮できます。」と記載されている。

これによれば、交代運転手の非運転時間は拘束時間には含まれるものの、休憩時間であって労働時間ではないことが前提とされていることが明らかである。

交替運転手は仮眠でき,飲食もできること

被控訴人において、交代運転手はリクライニングシートで仮眠できる状態であり、飲食することも可能であることは前記認定のとおりであって、不活動仮眠時間において労働から離れることが保障されている。…不活動仮眠時間において被控訴人の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできない。

アンケート評価をしていた点や,休憩場所がバス車内に限られる点は?

控訴人らは、①被控訴人に運行業務を依頼するB社が利用客のアンケート結果に基づく評価をしていることから、被控訴人からB社の評価を下げるような行動をしないよう指示命令されていた、②交代運転手についても、休憩する場所がバス車内に限られ、制服の上着の着用は義務付けられていたとして、休憩する場所や服装に自由がないのは被控訴人からの指示命令であったと主張する。

 しかし、上記①について、被控訴人が亡A及び控訴人X4に対し、B社の評価を下げるような行動をしないよう指示命令したことを認めるに足りる証拠はない。また、上記②について、交代運転手の職務の性質上、休憩する場所がバス車内であることはやむを得ないことであるし、その際に、制服の着用は義務付けられていたものの、被控訴人は制服の上着を脱ぐことを許容して、可能な限り控訴人らが被控訴人の指揮命令下から解放されるように配慮していたものである。そうすると、交代運転手の休憩する場所がバス車内に限られ、制服の着用を義務付けられていたことをもって、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたということはできない。

携帯電話を持たされていた点は?

控訴人らは、交代運転手は被控訴人支給の携帯電話を管理させられており、役務の提供が義務付けられていたと主張する。

しかし、交代運転手は被控訴人から非常用に携帯電話を持たされていたものの、被控訴人からの着信がほとんどないことは前記認定のとおりであるから、非常用に携帯電話を持たされていたことをもって、携帯電話に関して役務の提供が義務付けられていたとはいえず、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することもできない。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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