職業紹介事業

職業紹介事業

長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。

今回は、「職業紹介事業」について話をしたいと思います。

1 はじめに

 職業紹介とは、求人と求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることを言います。

 職業紹介については労働者保護の観点から一定の法規制がなされています。

 人身売買、強制労働、中間搾取が社会問題となった歴史があるからです。

 法規制の経緯につき、簡単に述べると、1921年の職業紹介法においては、無料の職業紹介所を市町村が設置し、有料の職業紹介事業を国の規制下におくことなどが定められ、1938年の職業紹介法の改正においては、職業紹介事業の禁止と国営化等が定められました。

 戦後の1947年、職業紹介法は廃止され、新たに職業安定法が制定され、国が職業紹介事業を独占し、民間が職業紹介を行うことは原則禁止、例外的に音楽家、芸術家、医師、家政婦等一定の職業についてのみ許可制のもと可能とされました。

 しかし、しだいに民間での職業紹介のニーズが高まり、1997年には、一定の職業にのみ例外的に許容されていた有料職業紹介事業が、原則として自由化され、手数料規制も緩和されました。また、1999年の職業安定法改正においては、同法の目的に民間職業紹介事業による労働力需給調整の役割が明記されました。

 また、2006年の地方分権改革推進法の下で、ハローワークなどをもつ国と、各地域の多様なニーズに沿った雇用政策を進める地方公共団体との間で、相互連携・協力できる体制の整備をはかる動きが進められました。

 2017年の職業安定法の改正では、職業紹介事業者への紹介実績等の情報提供の義務づけなどが図られました(なお、労働関係法令違反の求人者等からの求人の不受理による不適切求人の排除、求人者等への労働契約締結前の労働条件等の明示の義務づけも図られました)。

2 労働力需給調整の重要性

⑴ 労働力需給調整が重要であることは言うまでもないことです。

 労働力の需要と供給のミスマッチは、企業にとっても、労働者にとっても不幸なことであると思います。これを解消する点で、重要です。また、ミスマッチの解消は生産性の向上につながり、経済の発展に寄与すると考えます。

⑵ 我が国においては、解雇は容易に認められません(コラム「解雇について」、「解雇の承認って!?」参照)。そのため、企業が労働者との雇用関係を解消したいと考えても、これを容易に実行することはできません。他方、企業は、解雇が容易に認められないため、新規採用に慎重にならざるを得ません。また、解雇が規制されることに加え、賃金を減額することも容易に認められないため、雇用している労働者の賃金UPにも慎重にならざるを得ませんし、新規採用時に提示する賃金等も控え目なものとする傾向にあります。これは、企業にとってマイナスです。例えば、企業は労働者Aとの雇用関係を解消したいと考えても、それができず、また、新規プロジェクトのために、新たな人材を採用したいと考えても、労働者Aの賃金を負担しつつ、新規プロジェクトのために新たな人材に高額の賃金を支給することは困難であり、新規プロジェクトのための人材に提示する採用条件は魅力のあるものとは言えず、したがって、優秀な人材は集まらないという悪循環に陥ります。

⑶ 解雇規制や賃金減額についての規制(不利益変更規制)は、労働者の生活保障の観点から、重要なものであることは否定できません。また、企業と労働者との間には情報の質・量の格差や交渉力の格差があることも確かであり、労働者保護の必要があること自体に反対する人はいないであろうと思います。

 しかしながら、労働者の生活保障というとき、その手段は解雇規制や賃金減額についての規制(不利益変更規制)に限定されるものではありません。むしろこれらの規制の弊害を考えれば、別の手段が重視されるべきです。この手段の一つとして、職業紹介等による労働力需給調整が重要であると考えます。例えば、B社と労働者Cとの間で、労働力の需要と供給のミスマッチが生じた場合、労働者Cにおいて、D社やE社への転職が可能ならば、仮にB社から解雇されても、労働者Cの生活が大きなダメージを受けることはないと考えます。

3 民間職業紹介事業者への規制

⑴ 職業紹介における基本ルール

ア 職業選択の自由

 職業紹介は、求職者の職業選択の自由を尊重して行うものでなければなりません。

イ 差別的取扱いの禁止

 職業紹介においては、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として差別的取扱をしてはなりません。

ウ 労働条件等の明示

 労働契約の締結過程に第三者が介在することで労働条件が不明確になることを防ぐ趣旨です。求人者から仲介業者への明示、仲介業者から求職者への明示が必要とされています。

エ 個人情報の保護

 求職者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するにあたっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者の個人情報を収集し、収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければなりません。また、求職者の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならないとされています。

オ 求人・求職受理の原則

㋐ 求人の申込み

原則:求人の申込みは全て受理しなければならないとされています。

例外:次の求人の申込みは受理しないことができます。

①内容が法令に違反するもの

②賃金、労働時間その他の労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当であるもの  

③特定の労働関係法令に違反し、法律に基づく処分、公表その他の措置が講じられた者からの申込み

④労働条件等の明示が行われないもの

⑤暴力団員等からの申込み

⑥正当な理由なく、事業者から①~⑤にあたるかどうかを確認するための報告求めに応じない者からの申込み 

※ 取扱職種の範囲等を定め、これを厚生労働大臣に届け出た場合には、   その範囲外の求人申込みについては、受理する必要がありません。

㋑ 求職の申込み

原則:求職の申込みは全て受理しなければならない。

例外:内容が法令に違反するものは、受理しないことができます。

※ 特殊な業務に対する求職者の適否を決定するため必要があると認めるときは、試問及び技能の検査を行うことができます。

※ 取扱職種の範囲等を定め、これを厚生労働大臣に届け出た場合には、その範囲外の求職申込みについては、受理する必要がありません。

カ 適職紹介の原則

 求職者に対しては、その能力に適合する職業を紹介し、求人者に対しては、その雇用条件に適合する求職者を紹介するように努めなければならないとされています。

キ 労働争議への不介入の原則

 労働争議に対する中立の立場を維持するため、同盟罷業(ストライキ)又は作業所閉鎖(ロックアウト)の行われている事業所に、求職者を紹介してはならないとされています。

⑵ 民間職業紹介事業者への規制~有料職業紹介事業について

ア 許可制

 有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません。許可の有効期間は3年(更新の場合は5年)です。

 なお、無料の職業紹介事業を行おうとする者も、厚生労働大臣の許可を受けなければならないとされています(学校等が行う場合は届出でよい)。

イ 手数料の規制

 原則として、求職者から手数料を徴収することはできません。

 ①、②以外、職業紹介に関し、いかなる名義でも、実費その他の手数料又は報酬を受けてはならないとされています。

①職業紹介に通常必要となる経費等を勘案して厚生労働省令で定める種類及び額の手数料を徴収する場合

②あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表(手数料の種類、額その 他手数料に関する事項を定めた表をいう。)に基づき手数料を徴収する場合

ウ 紹介実績の情報提供

① 有料職業紹介事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、有料の職業紹介事業を行う事業所ごとの当該事業に係る事業報告書を作成し、厚生労働大臣に提出しなければなりません。

② 前項の事業報告書には、厚生労働省令で定めるところにより、有料の職業紹介事業を行う事業所ごとの当該事業に係る求職者の数、職業紹介に関する手数料の額その他職業紹介に関する事項を記載しなければなりません。

③ 有料職業紹介事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該有料職業紹介事業者の紹介により就職した者の数、当該有料職業紹介事業者の紹介により就職した者(期間の定めのない労働契約を締結した者に限る。)のうち離職した者(解雇により離職した者その他厚生労働省令で定める者を除く。)の数、手数料に関する事項その他厚生労働省令で定める事項に関し情報の提供を行わなければなりません。具体的にはインターネツトを利用して、公表することとされています。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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