運送業の待機時間は「労働時間」にあたるのか?
運送業の待機時間は「労働時間」にあたるのか?
長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。
今回は、運送業の待機時間が「労働時間」にあたるのかついて、考えたいと思います。
荷主や配送先に入ることができる台数の制限や配送時間の関係で運転手が現場付近で待機する場合、物流施設内で荷物の積み込みや積み下ろし待ちの場合、積み下ろし後の指示待ちの場合、これら待機時間は「労働時間」にあたるのか、です。
まず、労働時間」とは何かを明らかにする必要がありますが、この点については、以前のコラム(労働時間とは)をご覧ください。
労働時間にあたると考えた方がよい
労働時間にあたるか否かは、ケースバイケースということになりますが、労働時間該当性が肯定されるケースが多いと思います。
労働時間にあたらないケース
大阪地判平成18年6月15日(労働判例924号72頁)は、
前記1(3)、(4)のとおり、原告らは、配送先である目的地に到着し、荷下ろしの作業を終え、次の仕事の指示を待つ間、拘束されているとはいえない。仮に、被告から突然の指示が来ても、これに応じるか応じないかは、原告らの状況に基づき、原告らが自ら応諾するかしないかを判断することが許されていたことが認められる(〈人証略〉)。そうすると、上記時間帯は、被告の指揮命令下に置かれていたと評価することはできず、いわゆる手待ち時間とはいえず、労働時間には該当しないというべきである。
と述べました。
この判決のいう前記1(3)、(4)とは、以下の事実です。
(3)到着後の行動
配送先に到着した後、荷物を下ろすが、その際も、運転手が作業を行っていた。作業が終了すると、次の仕事(後記(5)参照)の指示を受けるまで、自由に過ごした。
(4)配送先での過ごし方
配送先では、作業が終わった後、次の仕事に入るまで自由に過ごすことができ、その間、食事の際には、飲酒することもできるし、パチンコをすることもあった。
コメント
この判決は、「会社の指示があっても、ドライバーに応諾の自由があった」と認定し、これが労働時間該当性を否定する根拠となっています。
会社の指示があっても、ドライバーが拒否できてしまうというケースでは、労働時間該当性は否定されることになりましょうが、このようなケースは例外的であると思います。
なお、この大阪地判は、
「また、原告らは、その主張する労働時間に、原告乙山が、目的地に到着するまでの間、1時間ないし2時間単位で、トラックを走行させていない時間(この時間も、甲2で「休憩時間」という表現を用いている。)を含めて計上している(甲2)。原告乙山は、比較的遠方の目的地(東北地方)への運送業務に従事しており、大阪を出発した後、目的地に到着するまでの間、相当長時間運転業務に従事しなければならないことから、途中、相当程度の時間、休憩をとっていたことが窺えるが、上記時間については、相当まとまった時間であることを考えると、休憩時間と考えるべきである(もちろん、それ以外にも、原告両名は、運送業務に従事中、トイレ休憩を始め、一定の頻度で休憩をとっていたことが窺える。)。」
という判断もしており、当然の判断であると考えます。
弁護士 植木 博路
(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています。