研修に参加している時間は「労働時間」にあたるのか?
研修に参加している時間は「労働時間」にあたるのか?
長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。
今回は、労働者が研修に参加している時間が「労働時間」にあたるのかついて、考えたいと思います。
まず、「労働時間」とは何かを明らかにする必要がありますが、この点については、以前のコラム(「労働時間」とは)をご覧ください。
自由参加か否かがポイント
自由参加であれば、労働時間にあたりません。
明示の指示(参加せよ)があれば、労働時間にあたると考えることになります。
では、明示の指示はないが、黙示の指示(参加の義務付け)があったと評価される場合にも、労働時間にあたると考えることになります。
不参加の場合に不利益を受けるか否か、研修内容が業務にどの程度関連するか、実施の場所や時間はどうかといった観点から、黙示の指示(参加の義務付け)があったか否かが判断されます。
WEB学習に関する
大阪高判平成22年11月19日(平成22年(ネ)第1610号)
以下のように述べて、WEB学習の時間は労働時間にあたらないと判断しました。
① 控訴人、NTT兵庫及びNTTネオメイトは、IP通信を重視するようになっており、従業員の将来のためにこれに関する知識を身につけさせる必要性があったことから、従業員に対してWEB学習等によるスキルアップを推奨していたこと、被控訴人の上司であるA課長も、WEB学習終了程度のBレベル資格以上を取得するよう明示的に求めていたこと、B課長においても、チャレンジシートに通信教育等による自己啓発を記載するよう求めており、WEB学習の状況は、社内のシステムで把握されていたことが認められる。
② しかしながら、WEB学習は、パソコンを操作してその作業をすること自体が、控訴人が利潤を得るための業務ではなく、むしろ、控訴人が、各従業員個人個人のスキルアップのための材料や機会を提供し、各従業員がその自主的な意思によって作業をすることによってスキルアップを図るものであるといえる。そのため、単にアクセスする回数を増やしたり時間をかけることに意味があるのではなく、学習効果を上げるところに意味があるのであるから、その成果を測るためには、技能試験等を行うしかないが、控訴人において、そのような試験が行われているわけでもない。使用者からしても、各従業員が意欲をもって、仕事に取り組み、仕事に必要な知識を身につけてくれることは重要であるから、WEB学習を奨励し、目標とすることを求めるものの、その効果は各人の能力や意欲によって左右されるものであるから、WEB学習の量のみを捉えて、従業員の評価をすることに意味はないのであって、WEB学習の推奨は、まさに従業員各人に対し自己研鑽するためのツールを提供して推奨しているにすぎず、これを業務の指示とみることもできないというべきである。
したがって、WEB学習の上記のような性質・内容によれば、これに従事した時間を、労務の提供とみることはできないというべきであり、これを業務の一環として実施するよう業務上の指示がなされていたとも評価できないことから、被控訴人がWEB学習に従事した時間があったとしても、それを控訴人の指揮命令下においてなされた労働時間と認めることができない。
コメント(WEB学習が労働時間にあたるかは,ケースバイケース)
一審の大阪地裁は、①リンク系の業務を本務としていた原告についても、ノード系の業務に従事することもあったこと(〈証拠略〉)、②被告らはIP通信を重視するようになっており、原告がこれに関する知識を身につける必要性があったことがうかがわれること(〈証拠略〉)、③WEB学習の教材は、一般性、汎用性を有する知識に留まらず、市販の書籍では勉強できない内容や、被告ら固有の仕様で作られた設備に関するもの等も含まれており(〈証拠略〉)、被告らの業務との関連性が密接であるといえること、④A課長の作成した平成15年度実行計画には、IP系資格取得の推進が掲げられており、原告は名指しでBレベル資格以上を取得するよう求められていること(〈証拠略〉)、⑤チャレンジシートにおいて、A課長がノード系の取扱を参考にした業務改善を求めたり、WEB学習によるスキルアップ(特にIP系に関するもの)を明示的に求めていること(〈証拠略〉)、⑥B課長も、チャレンジシートに通信教育等による自己啓発を記載するよう求めており(〈証拠略〉)、WEB学習への取組を求めていること、⑦原告の受講したWEB学習は、いずれもノード系に関するものや、IPに関するものや、業務性の認められる全社員販売で必要になるサービス知識等業務に密接関連するものであること、⑧被告NTT兵庫は、平成16年度において、IP系ないしIT系新資格の取得が低調であるとして、平成17年度にIP系ないしIT系スキル向上に向けた育成を計画していたこと(〈証拠略〉)、⑨WEB学習の状況は、社内のシステムで把握されていたこと等の点からすると、被告らの業務上の指示によるものであって、労働時間性が認められる。
と述べており、
地裁と高裁とで判断が異なる点には注意が必要です。微妙な事案であったということになります。
弁護士 植木 博路
(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)