従業員の退職についての注意点

従業員の退職についての注意点

1 退職とは

退職とは、双方の合意によって労働契約を終了させること、または労働者 側の一方的な解約の意思表示によって労働契約が終了することを言います。 

これに対して、解雇は、使用者の一方的な解約の意思表示によって労働契約が終了することを言います。

紛争になるリスクが小さいのは退職です。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります(労働契約法16条)。また、使用者は、有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができないとされています(労働契約法17条)。 

解雇が規制される趣旨は、「解雇は労働者の身分そのものを喪失させ、労働者に重大な不利益を与える。労使間の力の不均衡に照らせば、解雇を規制する必要がある」というものです。

2 退職についての規制

法律で規制が明記されているわけではありません。

しかし、退職も、労働者の身分そのものの喪失という重大な不利益を招くもの  ですから、裁判では、労働者が辞める意思を確定的に表示するのでなければ、退職の意思表示とは認められません。

例えば、上司から厳しく叱責された従業員がカッとなって「もうやめる」と発言した場合ですが、退職の意思表示があったとみることはできません。「もうやめる」と言った従業員に対し、上司がカッとなって、「もう会社に来るな」と言い返し、この日以降、実際に従業員が会社に来なくなった場合、後々、従業員から「解雇された」と主張されてしまう可能性があります。退職届を提出させたり、退職合意書をきちんと作成しておくことが重要です。

3 退職勧奨

使用者が労働者対して退職を促すこと。解雇のように一方的な労働契約解消ではなく、労働者の自発的な意思を誘導し、合意によって労働契約の解消を目指すものです。

合意解約(合意で労働契約を終了させること)に至っても、労働者から、意思表示の無効又は取消しを主張される(錯誤、強迫)リスクがあります。典型的には、解雇事由に該当する事実がないにもかかわらず、解雇もありうると告げて、退職を迫ったケースです。

退職勧奨の際の注意点は、退職勧奨を受ける側に対する尊敬と感謝の念を忘れないということでしょう。労働者の反論や主張に真摯に耳を傾け、誠実に退職して欲しい理由を説明する必要があると思います。 

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)

前のページに戻る