「有期労働契約について①」

「有期労働契約について①」

長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。

今回は、「有期労働契約について①」として、有期労働契約について話をしたいと思います。

1 はじめに

  企業経営において、人件費は経費の中で大きな割合を占める場合が多く、また継続的に発生するものです。そのため、経営者においては、労働者を新規採用するのに慎重になりがちですし、採用するにしても高額の賃金を支給することに慎重にならざるを得ません。

  我が国においては、解雇は容易に認められませんし(コラム「解雇について」、「解雇の承認って!?」参照)、賃金の減額(労働条件の不利益変更)も容易ではありません。

  そのため、経営者は、有期労働契約により新規に労働者を採用するという方法を考える場合があります。経営者が新規に事業を行う場合に、その事業が失敗する可能性を考え、有期労働契約により人材を確保したり、また、新規に採用する労働者の能力等に確証を抱けない場合に、その労働者の採用を有期労働契約とする場合です。

2 労働契約が自動終了すること

  有期労働契約は、期間満了により労働契約が自動的に終了します。これは解雇ではなく、したがって解雇規制は及びません。なお、雇止め規制はありますので、この点には注意が必要です(雇止め規制については、次回以降のコラムで述べたいと思います)。

  例えば、1年という期間で採用した労働者Aについては、1年の期間が満了すれば、労働契約は終了します。これは解雇ではありません。もちろん、1年の期間満了後も、労働契約が更新され、労働契約が継続する場合はあります。

3 期間中の解雇は難しいこと

  有期労働契約を締結する場合に注意する必要がある点として、期間中の解雇は難しいという点があります。すなわち、民法628条は「やむを得ない事由」があれば期間途中の解雇を認めていますが、やむを得ない事由とは、期間の定めのない労働契約における解雇を正当化する事由よりも限定された重大な事由であると考えられています。なお、「やむを得ない事由がなくても解雇できる」といった合意を労働者としていても、そのような合意は労契法17条に反し無効です。

4 期間中の労働者からの解約も難しいこと

  労働者も、期間中、やむを得ない事由がなければ労働契約を解約することはできません(民法628条の反対解釈)。やむを得ない事由とは「使用者が労働者の生命・身体に危険を及ぼす労働を命じたこと、賃金不払等の重大な債務不履行、労働者自身が傷病により就労不能に陥ったこと等の重大な事由に限られる」と解されています(土田道夫著「労働契約法」第2版、(㈱有斐閣、2016年、 P.784)。

  なお、長期の期間を定めた労働契約が締結された場合、労働者がその期間中は契約を簡単には解約できなくなり、労働者が長期にわたって使用者に拘束されるおそれが出てきます。そのため、有期労働契約の期間について上限規制があります(労基法14条)。上限規制については、次回以降のコラムで述べたいと思います。

特に注意するべき点としては、労基法附則137条が「期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる」と定めている点です。

使用者が1年を超える期間の有期労働契約を締結した場合、使用者が期間途中で労働者を解雇しようとしても、それは厳しく規制されます。これに対し、労働者は、1年経過後は自由に退職が可能となってしまいます。例えば、使用者において3年の期間の有期労働契約を締結していても、1年経過後は、労働者からの解約は可能(使用者側の解雇は厳しく規制されます)ということになります。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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