有期労働契約について②

有期労働契約について②

長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。

今回は、前回の「有期労働契約について①」に続いて、有期労働契約について話をしたいと思います。

1 雇い止め規制

⑴ 有期労働契約は、期間満了により労働契約が自動的に終了します。これは解雇ではなく、したがって解雇規制は及びません。

もっとも、雇止め規制はありますので、この点には注意が必要です。

⑵ 労働契約法19条

  労働契約法19条は、有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。①当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。②

当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。」と規定しています。

 この規定は判例法理を明文化してものですが、①は実質無期雇用型、②は期待保護型と言われることがあります。

⑶ 雇止めが有効と判断された裁判例を一つ紹介します。

東京地判平成27年7月31日/労働判例1121号5頁です。

【事案】大学院に在籍するXがコーヒー・軽食等の店舗内提供・テイクアウト販売を行う店舗の直接経営をするY株式会社の下で、期間の定め(3か月間)のある労働契約を締結・更新して、アルバイトとして平成15年8月から平成19年3月まで(14回の契約更新)、及び、平成20年7月から平成25年6月まで(19回の契約更新)勤務してきたが、Yの方針により雇止めされたことに対し、雇止めの無効を主張して、地位確認及び賃金請求をした事案

【雇止めについての判断】・まず、本件雇止めが労働契約法19条1号(実質無期雇用型)に該当するのかを検討し、契約更新手続は店長がアルバイトの面談を個別に行い、更新の可否について判断した上で行っていることが認められるため、契約更新手続が形骸化した事実はなく、XY間の労働契約は期間満了の都度更新されてきたものと認められることから、本件雇止めは法19条1号には該当しないとした。

・また、本件雇止めが法19条2号(期待保護型)に該当するのかについては、時間帯責任者として中心的業務である接客販売業務を店長と全く変わらない形で行ってきたとのXの主張は、Xの従事してきた業務内容に照らして、店長の指揮命令下でXが時間帯責任者としての職責を長期果たしてきたとの限度で認められるとし、契約更新手続が形骸化していたことについては上記の通り認められないと判示した。さらに、平成25年2月、組合とYは、Xら組合員については、同年6月以降も上限を設けることなく契約更新する旨合意したとのXの主張については、認定事実によれば、当事者間で会話のニュアンスが正確に伝わらなかったり、誤解が生じたりした可能性があり、X主張の合意の成立は認められないとした。加えて、Yではアルバイトが更新を希望した場合、よほど勤務態度に問題がなければ当然に契約更新がされてきたとのXの主張については、Yでの勤務条件に関しては、アルバイトの採用条件として最低で週2日程度、1回当たり4時間以上の勤務希望者から採用・契約更新していたところ、本件雇止め当時のXは週に1回が多く、入っても2回であり、勤務頻度の少なさを理由として雇止めされてもおかしくない立場にあったと客観的に評価され、一般的には店長から雇止めされるアルバイトは少ないものの、X自身には必ずしもあてまはらず、Xの更新期待の合理的理由としては考慮できないため、法19条2号にも該当しないとした。

2 上限規制

⑴ 長期の期間を定めた労働契約が締結された場合、労働者がその期間中は契約を簡単には解約できなくなり、労働者が長期にわたって使用者に拘束されるおそれが出てきます。そのため、有期労働契約の期間について上限規制があります(労基法14条)。

労基法14条は以下のとおり定めています。

第14条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、5年)を超える期間について締結してはならない。

 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約

 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)

 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。

 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

⑵ 上限は3年です。ただし、労基法附則137条が「期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる」と定めています。使用者が1年を超える期間の有期労働契約を締結した場合、使用者が期間途中で労働者を解雇しようとしても、それは厳しく規制されます。これに対し、労働者は、1年経過後は自由に退職が可能です。例えば、使用者において3年の期間の有期労働契約を締結していても、1年経過後は、労働者からの解約は可能(使用者側の解雇は厳しく規制されます)ということになります。

⑶ 例外①として、一定の事業の完了に必要な期間を定める場合があります。

 例えば、事業が4年で終了する場合は、4年の有期契約が可能です。ただし、この例外は当該労働者の業務が一定期間で終了する場合では足りず、当該事業自体が一定期間で完了する場合に限られます。

⑷ 例外②として、一定の労働者について5年上限が認められています。

 高度の専門的知識等を有する労働者、60歳以上の労働者です。なお、この場合、前述の労基法附則137条の暫定措置もありません。

 次回は、無期労働契約の転換権について述べたいと思います。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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