雇用契約書や就業規則に懲戒解雇の規定がない場合でも、懲戒解雇は可能か

雇用契約書や就業規則に懲戒解雇の規定がない場合でも、懲戒解雇は可能か

長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。

今回は、「雇用契約書や就業規則に懲戒解雇の規定がない場合でも、懲戒解雇は可能か」につき話をしたいと思います。

1 懲戒処分とは

 懲戒処分とは、使用者が労働者の企業秩序違反行為に対して科す制裁罰という性質をもつ不利益 措置です。具体的には、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などです。

2 懲戒処分をなす権限(懲戒権)の根拠

 使用者が懲戒処分をなす権限(懲戒権)の根拠については、固有権説と契約説との対立がありました。固有権説は「使用者は経営権の一環として当然に懲戒権をもつ」というもので、契約説は「使用者は就業規則などの労働契約上の根拠に基づいてその限りで懲戒権をもつ」というものです。

 最高裁は、かつては固有権説に立っていたと言われています。

 しかし、フジ興産事件・最判平成15・10・10(労判861号5頁)は「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」と述べ、またネスレ日本事件・最判平成18・10・6(労判925号11頁)は「使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものである」と述べており、現在の最高裁は契約説に立っていると考えられています。

 ただし、最高裁はなお固有権説に立っているという理解もあります。

3 雇用契約書や就業規則に懲戒解雇の規定がない場合でも、懲戒解雇は可能か

 学説上は、最高裁の理解につき、「契約説に立っているという理解」と「固有権説に立っているという理解」とがありますが、前者が有力です。

水町勇一郎著「詳解 労働法 第2版」2021年9月 一財)東京大学出版会P.565以下では「第1に、労働者と使用者の関係を『契約』と捉える現行法の基本的枠組み(労契法6条、民法623条参照)のなかでは、固有権説はその理論的根拠に乏しい。たしかに、使用者には『経営の自由』(憲法22条参照)が認められているが、憲法上の『自由』から直ちに契約上の『権利』や『義務』(例えば他者である労働者にそれへの服従を義務づける経営権やそこから派生する企業秩序定立権、懲戒権など)を導き出すことはできないからである。第2に、この問題の根底にある労働関係を『契約』と捉えるか『制度』と捉えるかという基本的的選択においても、現在の日本で『制度』理論(労働関係の共同体的な把握)をとることは規範的にみて問題が大きい。日本の労働関係の実態をみると、確かに労働と賃金のドライな交換契約というより、会社という共同体への人的帰属関係という性格が強い。しかし、その実態に内在している弊害(閉鎖的な企業共同体のなかでの集団による個人の抑圧や外部者・少数者の排除など)を考慮すると、日本の現状で規範的に『制度』理論をとってしまうことは大きな社会的危険を内包した(それを規範的に承認することにもなる)選択であると言える。」とし、契約説が妥当である旨説いています。

 実務上は、最高裁は契約説に立っているという理解のもとに、対応を行うべきです。すなわち、「雇用契約書や就業規則に懲戒解雇の規定がない場合でも、懲戒解雇は可能か」という問いに対しては、不可能と考えるべきということです。根拠規定がないにもかかわらず、懲戒解雇を行った場合、懲戒解雇事由(重大な企業秩序遵守義務違反)があっても、その懲戒解雇は無効となるということです。

 労契法15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定めていますが、そもそも「使用者が労働者を懲戒することができる場合」なのか否か、すなわち雇用契約書や就業規則に懲戒解雇の規定があるか否かをまずは確認する必要があるということです。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っています)

前のページに戻る