賃金債権の消滅時効期間が3年に
賃金債権の消滅時効期間が3年に
●消滅時効期間の延長
令和2年4月1日から賃金債権の消滅時効が2年から3年に延長されました(いずれは、3年から5年になります)。3年に延長された影響が出始めるのは、令和2年4月1日から2年が経過した後、すなわち、令和4年4月以降であると思います。
●請求額は1.5倍
単純に考えて、請求額がこれまでの1.5倍になるのです。また、労働基準法114条の付加金(一種の制裁金で、付加金を支払う義務があるか、支払うとしてその金額はいくらかについては裁判所の裁量とされているのですが、最大で未払賃金額と同額)を含めて考えると、請求額はこれまでの2倍ということになります。さらに、未払賃金についての遅延損害金(退職後の遅延損害金は、賃金の支払の確保等に関する法律によって年利14.6%)も無視できません。
●廃業や倒産のリスク
未払賃金の請求を受けて、廃業や倒産においこまれるケースもあります。今後は、そのようなケースが増えると思います。
「従業員にそれなりの賃金を支給しているのに、未払賃金が発生している(元従業員から高額の未払賃金の請求を受ける)」というケースがあります。就業規則(賃金規程)がなかったり、存在しても、就業規則(賃金規程)の規定内容が悪かったりするケースです。
例えば、次のようなケースです。
●ケース1 「月給35万円を支払う。この35万円には残業代を含む」という条件で雇用しているケース
令和3年1月の総労働時間は220時間(所定労働時間は170時間)であったとすると、未払賃金はいくらになるでしょうか。
会社側の主張:35万円には残業代が含まれている。未払いの残業代はない。
従業員側の主張:35万円に残業代が含まれるという合意があったとしても、そのような合意は無効だ。未払いの残業代がある。
まず、35万円には残業代を含むという点ですが、そのような合意は無効とされてしまいます。35万円のうちいくらが残業時間の労働に対する賃金なのか不明確であるため、割増賃金が支払われたのか否か判然としないというのが理由です。
したがって、35万円は所定労働時間たる170時間分の賃金ということになり、残りの50時間分は未払いということになります。そして、この50時間分の未払賃金の金額は、次の計算式から、128,688円となります。
(計算式){(350,000円÷170時間)×50時間}×1.25
=128,688円
※ 所定労働時間の170時間を超えた時間すべてを、法定労働時間を超えたものとみています。
●ケース2 「営業職で、実際は、契約金額の2割を支給する。最低保障として20万円を保障する」という歩合なのに、固定給である旨を定めた就業規則(賃金規程)があるケース
令和3年1月の総労働時間は220時間(所定労働時間は170時間)であり、契約金額が200万円であったとすると、未払賃金はいくらになるでしょうか。
会社側の主張:実際は歩合給であるから、未払残業代はない。あっても、少額である。未払いの残業代はない。あっても少額である。
従業員側の主張:固定給である旨を定めた就業規則(賃金規程)がある以上は、歩合給と考えることはできない。未払いの残業代がある。
まず、実際には歩合給であっても、固定給である旨を定めた就業規則(賃金規程)が存在するなら、それが優先するとされてしまう可能性があります。その場合、契約金額200万円の2割に相当する40万円が基本給となり、かつ、この40万円は所定労働時間たる170時間分の賃金ということになります。したがって、残りの50時間分は未払いということになります。そして、この50時間分の未払賃金の金額は、次の計算式から、147,063円となります。
(計算式){(400,000円÷170時間)×50時間}×1.25
=147,063円
※ 所定労働時間の170時間を超えた時間すべてを、法定労働時間を超えたものとみています。
このケースで、固定給である旨を定めた就業規則(賃金規程)が存在しない場合には、個別の契約(歩合給)が優先し、歩合給であるということになり、未払残業額は、次の計算式から、22,725円となります。
(計算式){(400,000円÷220時間)×50時間}×0.25
=22,725円
※ 所定労働時間の170時間を超えた時間すべてを、法定労働時間を超えたものとみています。
弁護士 植木 博路
(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)