過半数代表者とは

過半数代表者とは

 長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。 今回は、「過半数代表者とは」と題し、過半数代表者について話をしたいと思います。

1 はじめに   

 労働基準法等において、事業場の過半数労働者を組織する労働組合がある場合にはその労働組合、これがない場合には事業場の過半数労働者を代表する者との書面による協定が要求される場合があります。 例えば、労基法18条2項(労働者の貯金をその委託を受けて管理しようとする場合)、労基法24条1項ただし書(賃金の一部を控除して支払う場合)、32条の2第1項(一か月単位の変形労働時間制を導入する場合。ただし、就業規則その他これに準ずるものによっても導入可)、32条の3第1項(フレックスタイム制を導入する場合)、32条の4第1項及び第2項(一か月単位の変形労働時間制を導入する場合)、32条の5第1項(一週間単位の変形労働時間制を導入する場合)、34条2項ただし書(休憩時間の一斉付与の原則の例外)、36条1項(時間外労働、休日労働をさせる場合)、37条3項(時間外・休日割増賃金に代わる代替休暇の付与)、38条の2第2項(事業場外労働のみなし時間の設定)、38条の3第1項(専門業務型裁量労働制を導入する場合)、38条の4第2項第1号(企画業務型裁量労働制を導入する場合における労使委員会決議に関し、労使委員会の委員の指名。過去のコラム「労使委員会の設置方法」参照)、39条4項(有給休暇の時間単位付与)、同条6項(計画年休)、同条9項ただし書(有給休暇期間中の賃金の算定)、41条の2第3項(高度プロフェッショナル制度を導入する場合における労使委員会決議に関し、労使委員会の委員の指名。過去のコラム「高度プロフェッショナル制度とは」参照)です。 また、就業規則の作成又は変更については、事業場の過半数労働者を組織する労働組合がある場合にはその労働組合、これがない場合には事業場の過半数労働者を代表する者の意見を聴かなければならないとされています(労基法90条1項)。

2 過半数代表者とは

 過半数代表者は、次の要件をいずれも満たす必要があります(労規則6条の2第1項)。

 まず、①労基法41条2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないことが必要です。監督又は管理の地位にある者とは「労基法が規制する労働時間、休憩、休日等の枠  を超えて活動することが当然とされる程度に、企業経営上重要な職務と責任を有し、現実 の勤務形態もその規則になじまないような立場にある者」をいうとされています。課長か 否か、係長か否かというような役職によって判断されるのではなく、実態によって判断されます。   

 次に、②法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないことが必要です。実務的には、こちらの要件が重要です。当該事業場の労働者にとって、選出される者が労働者の過半数を代表して当該協定を締結することの適否を判断する機会が与えられ、かつ、当該事業場の過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる民主的な手続がとられていることが必要です。   

 なお、東京高判平9・11・17労判729号44頁は「親睦団体の代表者を自動的に過半数代表者とした36協定を無効」と判断しました。

3 過半数代表者への不利益取扱いの禁止、必要な配慮

 使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければなりません(労規則6条の2第3項)。   

 のみならず、使用者は、過半数代表者が法に規定する協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければなりません(労規則6条2第4項)。過半数代表者が労働者の意見集約等を行うに当たって必要となる事務機器(イントラネットや社内メールを含みます。)や事務スペースの提供を行うなど、必要な配慮を行う必要があります。

4 おわりに

 就業規則の作成・変更の際に過半数代表者の意見を聴取したり、36協定を過半数代表者と締結したりする等、会社が過半数代表者とやりとりをする場面は、多いです。 ところが、過半数代表者の選出方法に瑕疵があると疑われるケースは少なくないように思います。これは、決して、会社側が悪意をもって会社に友好的な従業員を過半数代表者に指名しているといったわけではないと思います。会社(代表者や担当者)が手続きの面倒さを回避する意図で、適切な手続きを履践できていないというケースがほとんどであるように思います。 むしろ従業員側においても、過半数代表者の選出手続が適切に行われることに関心がなく、「会社が指名してくれたら、それに従う」というような対応をする従業員もいるようです。

  しかし、労働審判や労働裁判において、過半数代表者の選出方法に瑕疵があるとして労使協定の効力が争われる場合は多く、その場合、適切な手続きを履践できていなかったことの不利益(労使協定が無効となる等)は、会社が負うことになります。この点からも、会社においては、過半数代表者の選出につき適切な手続きを履践し、かつ、その記録を残しておく必要が高いと言えます。   

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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