『運送業への時間外労働の上限規制の適用』について

『運送業への時間外労働の上限規制の適用』について

長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。

弊所の顧問先企業様にも運送業をされている企業様が複数あり、時間外労働の上限規制への対応について、ご相談をいただいています。

運送業への時間外労働の上限規制への適用

運送業に時間外労働の上限規制が適用されるとは、

「2024(令和6)年4月1日から自動車運転の業務にも時間外労働の上限規制が適用され、時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年960時間(休日労働を含まない)を限度に設定する必要がある」

ということです。

時間外労働の上限規制とその適用猶予

簡単に整理します。

㋐ 2018(平成30)年6月成立の働き方改革関連法によって労基法改正が行われ、時間外労働の上限規制が導入されました(大企業は2019(平成31)年4月から、中小企業は2020(令和2)年4月から施行)。

㋑ 時間外労働の上限規制については、建設事業、自動車運転業務、医師等につき、5年間の適用猶予とされました。

運送業については2023(令和5)年3月まで適用しない(適用猶予)となっていたのですが、2024(令和6)年4月から適用されることとなります。ただし、特別条項付三六協定の1年間の限度時間は、720時間ではなく、960時間とされます。令和6年4月から、運送業に適用される時間外労働の上限規制の具体的中身については、後述します。

なお、そもそも時間外労働に対する上限規制の内容がどのようなものかは、「残業、休日労働に関する労基法36条を読み解く」を確認してください。

運送業に適用される時間外労働の上限規制

1 施行期日

⑴ 労働時間の上限規制ですが、働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関 する法律)附則第1条が施行期日につき、定めています。

㋐すなわち、施行日は2019(平成31)年4月1日です。

㋑ただし、同法附則第2条が三六協定に関する経過措置として、「新労基法36条の規定は、平成31年4月1日以後の期間のみを定めている協定について適用し、同年3月31日を含む期間を定めている協定については、当該協定に定める期間の初日から起算して1年を経過する日までの間については、なお従前の例による」と定めています。

㋒さらに、同法附則第3条は、中小企業に関し、「附則第2条の『平成31年4月1日』とあるのは、『令和2年4月1日』とする」と定めています。そのため、中小企業につき、時間外労働の上限規制が適用されるのは、2020(令和2)年4月1日からということになります。厳密に言えば、令和2年4月1日時点で、2020(令和2)年4月1日以後の期間のみを定めている三六協定については改正法が適用されるのですが、2020(令和2)年3月31日を含む期間を定めている三六協定については、改正法は適用されない(この三六協定の、次の三六協定から改正法が適用される)ことになります。

㋓また、運送業については、令和6年4月1日から、時間外労働の上限規制が適用されることになりますが、より正確には、下記2に説明するとおりとなります。条文の内容が複雑ですので、正確な理解が難しいのですが、ここは正確に押さえておく必要があります。

2 運送業に適用される時間外労働の上限規制

⑴ 時間外労働の上限規制の内容は、「残業、休日労働に関する労基法36条を読み解く」に説明したとおりです。

⑵ この内容と、運送業に適用される時間外労働の上限規制は、異なります。

⑶ 比較してみます。黒文字が、一般の時間外労働の上限規制です。運送業に適用される時間労働の上限規制との異同を赤で示します。

⑷ 運送業に対する時間外労働の上限規制の施行時期は、以下のとおりです。

 すなわち、働き方改革関連法は労基法の附則として140条を定めることとし、同条2項は、運送業については、「令和6年3月31日(同日及びその翌日を含む期間を定めている三六協定に関しては、当該協定に定める期間の初日から起算して1年を経過する日)までの間、労基法36条2項4号中『1か月及び』とあるのは、『1日を超え3か月以内の範囲内で三六協定をする使用者及び労働組合若しくは労働者の過半数を代表する者が定める期間並びに』とし、労基法36条3項から5項まで及び6項(2号及び3号に係る部分に限る。)の規定は適用しない」旨を規定しています。

 シンプルに考えるため、(太字)内はいったん無視します。

 そうすると、運送業については、令和6年3月31日まで、(ⅰ)労基法36条2項につき一定の読み替えをする、(ⅱ)労基法36条3項から5項及び6項(2号及び3号のみ)は適用しないという規定であることが分かります。

 したがって、

運送業については、令和6年3月31日まで、時間外労働の上限規制は適用がない

ということになります。

 さらに、(太字)内を読めば、

令和6年4月1日時点で、令和6年3月31日と令和6年4月1日を含む期間を定めている三六協定については、時間外労働の上限規制は適用されず、この三六協定の、次の三六協定から改正法が適用される

ことになります。

弁護士 植木 博路

(長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っています)

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