懲戒処分前に自宅待機を命じた場合の、賃金支払義務
懲戒処分前に自宅待機を命じた場合の、賃金支払義務
処分前の自宅待機
懲戒処分としての出勤停止ではなく,解雇や懲戒処分を決定するまでの期間,自宅待機を命じる場合があります。
賃金の支払いが必要
この期間中の賃金については,使用者において支払う義務があるのが原則です(民法536条2項)。
【裁判例】名古屋地裁平成3年7月22日判決は次のように述べており、参考になります。
Y社が本件懲戒処分に先立ち,Xに対し昭和五二年九月二六日から同年一〇月三日まで自宅謹慎を命じ,その間の賃金三万九五五二円を控除したことは当事者間に争いがない。
Y社が右賃金控除をした根拠は,Aにかかる暴行事件の際に同様の措置が執られ,それ以降,懲戒問題が生じて自宅謹慎を命ぜられ,後に懲戒処分が決定した場合その期間は欠勤扱いとする旨の慣行が成立しており,訴外組合もそのことを了承していたということにあると認められる。
しかしながら,このような場合の自宅謹慎は,それ自体として懲戒的性質を有するものではなく,当面の職場秩序維持の観点から執られる一種の職務命令とみるべきものであるから,使用者は当然にその間の賃金支払い義務を免れるものではない。
そして,使用者が右支払義務を免れるためには,当該労働者を就労させないことにつき,不正行為の再発,証拠湮滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存するか又はこれを実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠が存在することを要すると解すべきであり,
単なる労使慣行あるいは組合との間の口頭了解の存在では足りないと解すべきである。 本件においては,右緊急かつ合理的な理由又は懲戒規定上の根拠の存在を認めるに足りる証拠は存在しないから,Y社が行った右賃金控除は,単なる賃金不払いとみざるを得ない。
弁護士 植木 博路
(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)