早出出勤の労働時間該当性
早出出勤の労働時間該当性
長崎,福岡で,「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。
今回は,「早出出勤の労働時間該当性」について,話をしたいと思います。なお,労働時間について述べた以下のコラムも,参考にしてください。
1 東京地裁平成25年12月25日判決(労働判例1088号11頁)
この判決は,化粧品等を販売する会社に勤務していた労働者が,会社から黙示的に早出出勤を命じられ,早出出勤をしていたと主張し,残業代を請求したことに対し,
「終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり,始業時刻前の出社(早出出勤)については,通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や,生活パターン等から早く起床し,自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により,特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られるところであることから,早出出勤については,業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきである」と述べ,
さらに,「被告(会社)の始業時刻は8時30分であるところ,原告(労働者)は常にそれよりも1時間も早い,7時30分前後に出社していたとのことであるが,そもそも1時間も早く職場に来る必要性があったことを認めるに足りる証拠はない。また,原告(労働者)自身,タイムカード打刻後,食堂でいろいろ話をすることがあったとか,常時やらなければならない仕事があったわけでもないと述べている。」などと述べ,「原告(労働者)が残業代を請求している早出出勤については,労働時間に該当すると認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ず,原告(労働者)の請求は認められない」としました。
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早出出勤につき,使用者の明示の指示があれば,それは労働時間にあたるということになります。しかし,使用者の明示の指示がない場合において,労働者が「黙示の指示」があったと主張し,残業代を請求してくるケースがあります。
上記判決は,黙示の指示があったか否かに関し,「早出出勤の業務上の必要性を具体的に検討するべき」と述べたうえで,業務上の必要性があったとはいえないとして,労働時間該当性を否定しました。
妥当な判断であると考えます。
「所定の始業時刻前のタイムカードの打刻時間を始業時刻として主張する場合(早出残業)には,使用者が明示的には労務の提供を義務付けていない始業時刻前の時間が,使用者から義務付けられまたはこれを余儀なくされ,使用者の指揮命令下にある労働時間に該当することについての具体的な主張・立証が必要となってこよう。したがって,このような事情が存在しないときは,所定の始業時刻をもって労務提供開始時間とするのが相当である」との指摘もあります(白石哲編著「労働関係訴訟の実務(第2版)P.68」)。
一般に,出勤,すなわち,会社にどのような手段で,何時に来るかは,労働者の完全な自由と言え,使用者の関与できるようなものではないと考えます。朝早く会社に来て,タバコを吸ったり,コーヒーを飲んだりする労働者もいるでしょうし,新聞を読んでいる労働者もいるかもしれません。
したがって,早出出勤がなされ,それが継続していたとしても,安易に使用者の黙示の指示があると考えるべきではなく,早出出勤につき業務上の必要性があったのか否かを具体的に検討する必要があります。
弁護士 植木 博路
(長崎,福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています)