「帰宅後や休日の携帯電話での応答時間は労働時間か」
「帰宅後や休日の携帯電話での応答時間は労働時間か」
長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。
今回は、「帰宅後や休日の携帯電話での応答時間は労働時間か」について話をしたいと思います。
1 事例
Y社では、海外の取引先の対応をする従業員に、携帯電話を持たせ、帰宅後や休日でも、取引先からの電話対応を指示しています。
具体的には、Y社は、従業員X1、X2、X3に対し、
X1は月曜日、木曜日、
X2は火曜日、金曜日
X3は水曜日、土曜日(土曜日は休日)
において、帰宅後や休日の電話対応を指示しています。なお、電話がかかって くる頻度はさほど多くはありません。また、電話対応後、ただちに会社に出社して業務に従事しなければならないというわけではありません。また、就寝時間にまで電話対応をすることは求められておらず、電話がかかってきた場合にすぐに応答することができない場合は、事後に折返しの電話をすることでよいとされています。
2 考え方
①実際に電話で対応した時間は、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と言え、労働時間にあたると考えます。
②では、電話がかかってきていない時間が労働時間にあたるのかを考えたいと思います。なお、労働時間については「労働時間とは」、「労働時間とは②」も参照してください。
例えば、X3は、水曜日は帰宅後も電話対応をしなければならない状況ではありますが、所定の場所にいることを義務付けられているわけではなく、場所的拘束はありません。また、実際に電話対応をしていない時間は、自由(テレビを見たり、家族で食事に出かけたり、ゴルフの練習に行くことも可能)であり、業務性はありません。加えて、仮に電話がかってきても、電話対応をしなければなりませんが、それ以外に何か具体的な業務をしなければならないとか、直ちに会社に出社しなければならないというわけでもありません。したがって、電話がかかってきていない時間は、原則として、労働時間にはあたらないと考えます。
3 労働時間管理、賃金支給
①の時間は労働時間にあたると考えますので、X社としては適切に労働時間管理を行う必要があります。また、賃金を支払う必要があります。
②の時間は労働時間にはあたらないと考えますので、労働時間管理を行う必要はありませんが、②の時間が従業員に対し一定の心理的負荷を課すことは否定できません。したがって、従業員の健康面への配慮から、②の時間の長さや時間帯には留意する必要があります。深夜や休日に②の時間を設定することは、会社が従業員に対して負う安全配慮義務の観点から問題があると指摘される可能性がありますので、慎重に検討するべきです。また、理論的には賃金を支払う必要はありませんが、従業員のモチベーションに配慮し一定額の手当を支給することを検討してもよいと考えます。
弁護士 植木 博路
(長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っっています)