日本版同一労働同一賃金について(その5)
日本版同一労働同一賃金について(その5)
パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金制度の開始)
長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。
中小企業についても令和3年4月1日から適用開始となった、パートタイム・有期雇用労働法について、何回かに分けて、話をしていきたいと思います。今回は、その第5回目であり、定年後再雇用の場合の待遇差が「同一労働同一賃金」規制に反しないかという論点について判断をした「長澤運輸事件最高裁判決(最判平30・6・1/労判1179号34頁、判例タイムズ1453号47頁)」について話したいと思います。
なお、第1回から第4回については、下記リンクを確認してください。
判決のポイント
この事件は、
●定年後再雇用(有期雇用)された嘱託社員と、正社員を比較して、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲は同一でした。
●最高裁は、基本給(能率給、職務給)、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与の相違については、不合理ではないと判断しました。他方、精勤手当、時間外手当の相違は不合理と判断しました。
精勤手当の相違は不合理と判断された
最高裁は、基本給(能率給、職務給)、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与の相違については、不合理ではないと判断しましたが、精勤手当、時間外手当の相違は不合理と判断しています。
精勤手当の趣旨(皆勤の奨励)、皆勤を奨励する必要性に着目
最高裁は「被上告人における精勤手当は,その支給要件及び内容に照らせば,従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるものであるということができる。そして,被上告人の嘱託乗務員と正社員との職務の内容が同一である以上,両者の間で,その皆勤を奨励する必要性に相違はないというべきである」と述べています。
皆勤を奨励する必要性に相違があれば、精勤手当の相違も不合理とは言えない?
上記最高裁の論理からすれば「正社員と定年後再雇用者との間で、皆勤を奨励する必要性に相違があれば、精勤手当の相違も不合理とは言えない」と考えることが可能です。職務内容が同一ではない場合(業務内容が異なる、あるいは業務に伴う責任の程度が異なる場合)には、皆勤を奨励する必要性に相違があるといえる場合もあるでしょう。定年後再雇用者につき、業務内容を定年前のそれから減らしたり、責任の程度も定年前のそれから限定的にしている会社においては、正社員と定年後再雇用者との間で、業務内容及び業務に伴う責任の程度が同一であるとは言えません。そのような会社では、正社員と定年後再雇用者との間で皆勤を奨励する必要性に相違があるといえ、精勤手当につき相違を設けても不合理と言えないと考えることも可能と考えます。
時間外手当
最高裁は、「正社員の超勤手当及び嘱託乗務員の時間外手当は,いずれも従業員の時間外労働等に対して労働基準法所定の割増賃金を支払う趣旨で支給されるものであるといえる。被上告人は,正社員と嘱託乗務員の賃金体系を区別して定めているところ,割増賃金の算定に当たり,割増率その他の計算方法を両者で区別していることはうかがわれない。しかしながら,嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことは,不合理であると評価することができるものに当たり,正社員の超勤手当の計算の基礎に精勤手当が含まれるにもかかわらず,嘱託乗務員の時間外手当の計算の基礎には精勤手当が含まれないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができる」と述べました。
最高裁は、精勤手当についての相違が不合理であると述べ、さらに、精勤手当が算定基礎に含まれていないという理由で、時間外手当についての正社員と定年後再雇用者の間の相違を不合理と判断したものです。
次回も、さらに長澤運輸事件最高裁判決(最判平30・6・1/労判1179号34頁、判例タイムズ1453号47頁)について話したいと思います。
弁護士 植木 博路
(長崎、福岡で「企業側」の労務問題を取り扱っています。