「配転③」
「配転③」
長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っている弁護士植木博路です。
今回は、「配転①」、「配転②」の続きということで、配転について話をしたいと思います。
1 ELCジャパン事件(東京地判令2・12・18/労働判例1249号71頁)
米国に本社(化粧品の製造販売等を行う会社)がある日本支社(Y社)と、同社に中途採用された労働者(X)との、配転命令の有効無効に関する裁判です。判決は、配転命令を有効と判断しました。
2 事案
どのような事案であったかというと、
Xは、Y社に、製品開発部のグループマネージャーとして中途採用されたのですが(職務等級制度における等級はM2)、製品開発業務を中国に集約する本社の方針により、Xが属していた開発グループは廃止されることとなり、Y社はXに退職勧奨し、Xがこれを拒否したため、Xを社外に存在する新技術(製品開発に利用可能なもの)を社内に紹介する業務を行う部署のアシスタントマネージャー(等級はM1に降格)に配転しました。
また、組織変更のため、Xが配転された部署及び役職が廃止されることとなったため、Y社は、再びXに退職勧奨したのですが、Xがこれを拒否したため、Xをメール室(機械室で社内便の集荷及び配布業務)に配転しました(配転①)。
さらにその2年後、Xは医師からうつ病と診断され、このためY社は、Xの職務内容の変更を検討し、Xを試験的に翻訳業務に従事させ、7か月後、正式に同業務に配転しました(配転②)。
※ 職務等級制度とは、担当する職務の内容や困難度によって待遇を決める人事評価制度
3 判決の内容
判決は、配転①、配転②ともに、業務上の必要性があり、かつ通常甘受すべき不利益の範囲を超えておらず、不当な目的・動機も認められない(権利濫用にあたらない)としました。
4 コメント
「解雇に対する裁判所の審査は厳しい(解雇は無効とされるリスクが高い)。そのかわりに配転に対する裁判所の審査は緩やかである(配転は無効とされるリスクが低い)。」と言われることがありますが、この判決を読んでみて、「配転に対する裁判所の審査は緩やかであるが、Y社がXを解雇していたら、どうなっていただろうか」という感想を持ちました。はたして解雇は有効と判断されていたでしょうか。
あくまで私見ですが、Y社がXに対し、メール室での業務や翻訳業務を打診し、Xがこれを拒絶した場合に、やむなくXを解雇したという事情のもとであれば、解雇は有効と判断されるのではないかと考えます(「M&Aと解雇」参照)。
弁護士 植木 博路
(長崎、福岡で、「企業側」の労務問題を取り扱っています)